作品解説

『究竟の地 − 岩崎鬼剣舞の一年』(2008/DV/color/128min)

制作:愛知芸術文化センター

監督:三宅流

岩手県北上市の岩崎、という農村地域に古くから伝わる民俗芸能、「岩崎鬼剣舞」(国指定重要無形民俗文化財)。1300年の歴史を持つ、と言われるこの芸能は、もとは念仏を唱えながら踊る「念仏剣舞」ですが、異形の面をつけて勇壮に踊ることから「鬼剣舞」とよばれています。一年間、鬼剣舞にたずさわる人々、その地域に生きる人々の姿を追い続け、ドキュメンタリー映画として完成させました。

岩崎では保育園、小学校でも皆鬼剣舞を踊り、また踊り手の奥さんたちや、北上翔南高校の生徒たちも鬼剣舞を踊り、あたかも地域全体が鬼剣舞を中心に回っている様相を呈しています。

踊り手たちの多くは兼業農家の大工や職人たちで(若い世代は勤め人も増えてきている)、忙しい仕事の合間を縫って練習に励み、子供たちに教え、ほぼ毎週土日にある公演依頼のために、日々奔走しています。

また、遠方からは札幌や京都、そして佐渡の鼓童の人々が岩崎鬼剣舞に魅せられ、20年来岩崎の地に通い続け、鬼剣舞の指導を乞うています。

この一年は、少子化の影響で岩崎小学校が135年の歴史を閉じたこと、家元にあたる庭元、が恐らく最後になるであろう舞を踊ったこと、剣舞の大師匠が亡くなり、葬儀で剣舞作法の念仏と祈りの舞で大師匠を送り出したことなど、この年でしか起こりえない貴重なシーンを多く収録できました。

生活に根ざした芸能のありかた、その地域共同体のありかたは、まさに宮沢賢治の『農民芸術概論』で述べられた理想を体現しているかのようです。その姿は、共同体を失いつつある現代社会に生きる我々と、その、生活から遊離した芸術のあり方に、多くの問題提起を投げかけてくれます。単なる一地域の郷土芸能記録ではなく、普遍的なテーマとして、現在に生きる我々に投げかける貴重な記録であります。